大絵馬修復

絵馬は杉板に描かれることが多く、そのほとんどが濃墨で線描され、その線を残しながら塗る“彫り塗り”の技法で描かれています。そのため、経年により顔料が剥落しても、板表面に線が確認できるため、顔料の痕跡を頼りに、ある程度の復元や修復が可能です。

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 【壇ノ浦の戦い】七城・岡田神社 修復後

私たちは、大切に受け継がれてきた大絵馬を遺すことによって、日本の心を繋いでいくことが出来ます。どんなに剥落が進み板が割れようと、遺す方策があることを多くの人に知ってもらいたいと願っています。 

顔料は、胡粉(ごふん)や朱、丹(たん)、弁柄(べんがら)、黄土の他、群青や緑青(ろくしょう)などの岩絵具、藍や紅などの染料、金銀泥や箔などの金属顔料が用いられています。板の木目を覆い発色をよくするため、胡粉で厚く下塗りし、さらに迫真性を増すために、鎧(よろい)や刀の金具部分は、厚く盛り上げて金が施されています。そしてそれら顔料の定着には膠(にかわ)が使われています。

顔料は、経年により剥落、もしくは変色し、群青や緑青は渋い色に、朱は深まり、オレンジ色だった丹は白く退色しています。また、白緑色が塗ってあったであろう箇所が、時おり板の表面がえぐられるように痩せていることもあります。

描法について述べると、武者絵の場合、人物が鮮やかに色形として浮き上がるように、衣装の輪郭線に沿って明るい色を施す照隈(てりくま)の技法が用いられています。照隈は、胡粉か金泥、もしくはその箇所と同色の絵具に胡粉を混ぜたもので描くのが一般的ですが、岡田神社「壇ノ浦の戦い図」では、朱の衣装に反対色の白緑の照隈が施されています。反対色ゆえに輝いて見えるのです。このように絵師たちは、素材として顔料を活かしつつ、目に訴える色彩効果をも駆使しながら描いていました。それは彼らが、絵馬の奉納に対して崇高な思いをもって描いたからこそ獲得し得た技法だったのではないでしょうか。

 


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