青海波の跡

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浮島館木々 2s

5年前まで自宅兼アトリエとして暮らしていた屋敷には、大きな楠があり、春先にはたくさんの落ち葉を道に落としていました。門から20メートル程ある土塀の前をいつも竹箒で掃いていましたが、時間もかかるので箒の柄を長く持ち、速いスピードで力ずくで大まかにやるのが自分のやり方でした。

しかし、ある日帰宅すると、土塀の前の道にキラキラした清々しさを感じました。よく見ると、道に誰かが箒で掃いた跡が‥。それはゆっくりと柔らかに掃かれ、それがいくつも美しく扇形となって続いていたのでした。それは道に描かれた青海波の文様のようでした。

すぐにピンときました!それは隣のおばあちゃんでした。その日の朝、隣に住んでいる高齢のおばあちゃんを病院へ送り迎えをしたので、お礼の気持ちもあって、手足の不自由な身体ながら、私の家の前まで掃除してくれたのでした。これこそが芸術!意図もせず生まれた作品!これこそ理想のもののように感じました。

“芸術”は、もともと日本人の持ち合わせていなかった概念なのではないでしょうか。今一度、芸術という言葉を日本人の感覚で、腑に落ちるものとして捉えなおす必要があるのではないかと思っています。

 

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